コピー本で出した「地下鉄たちの小さな話」「めとろさんち。1~4」の再録になります。
都営大江戸線日々是好日
意識がまだおぼろな頃からひとつだけわかっていた。 自分はとても深いところを走るのだと。 「昭和の宿題を押しつけて悪いねえ」 そう言ってまだ誕生したばかりの自分の頭をなでてくれた職員にかぶりを振る。 どんな経緯で誕生したとしても開業するからには走り続けるのが使命。 それが他の路線と違い暗闇のみを進む日々であっても。 ―――さて、それで現状はというと。 ふと書類の決済を止めて見上げた時刻。 思うところあって立ち上がり、棚の隅にあるこっそり自費で色々足している小さな救急ボックスと水の入った霧吹きとタオルを机の上にそろえていく。 ほとんど足音のしない扉の外に早すぎたかと少々頭をひねったそのとき、慌ただしい足音が聞こえてきた。 待ち人来るで近づいていくとほどなくしてすっかり疲弊した様子で色違いの同じ制服が転がり込んでくる。 「だはーつっかれたあぁぁぁ」 「お疲れさまです。浅草さん」 「う~~いてえ」