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東海道本線をうっかり餌付けしたエピソードと東海道新幹線が走り出して少しした頃に起きたホラーな話になります。 実体験怪談マンガ程度のグロ表現があるので耐性の無い方はご注意ください。
【予想の範囲外】
そのおよそ二時間後、ほとんど厨房と化している妙に広い給湯室で名古屋の赤い電車の筆頭が半眼になっていた。 この辺御用達の赤味噌とお砂糖と酒とでぐつぐつ煮込まれているホルモンとこんにゃくと大根ーーー要はドテ煮の鍋をのぞきこんだツンツン気味の頭が首を傾げる。 「名鉄、これ多くね?」 「わかっとる」 焦げないようにときどきかき混ぜられていたり一升瓶から豪快に酒を足されていたりするそれの量は、本日の遅番である三人が食べる分よりかなり多い。 ついでに言うとご飯も愛知のブランド米『あいちのかおり』五合分が炊飯器で炊かれている真っ最中。 こっちの量もやっぱり多い。 いくら見た目と反比例する食欲魔神の多い名鉄路線とはいえこれはどうなのか。 かつての名鉄を彷彿とさせる髪型とつり目を持つ彼が首をひねったとき、後ろから声が飛んできた。 「各務原、それって答えはひとつじゃん」 「え?」 振り返った先にいるのはちょっと癖がかった栗色の髪をカットの仕様でうまく遊ばせている、一七〇に少し足りないくらいの背丈の人物。 数センチ違う各務原の頭をぽふぽふしながら向き直ったその顔はなぜか視線の先にいる名鉄とどっこいの渋面で。 「配膳終わったよ。で、そろそろなわけ?」 「まあな。二ヶ月ここで顔見とらんし持って行ってもないわ」 「!」 ふたりの会話でようやく気づいた各務原が眉間にしわを寄せた。 珍妙なメロディで炊きあがりを知らせた炊飯器の中身を手際よくほぐしてどんぶりを受け取りながら面白くなさそうに鼻を鳴らす。 ーーーーーーと。 どばんっ!! やけに騒々しい足音が近づいてきたかと思うと、勢いよく跳ね開けられた扉から飛び込んでくるオレンジ色の制服。 侵入者は赤いひと房の髪がぴこぴこ揺れるターゲットに遠慮会釈なく飛びかかる。 「名鉄腹減ったーーーっうえ!?」 動作と同時に上がったタマシイの叫びとおぼしきものはしかし素晴らしい連携で名鉄支線たちによって阻止された。 目を白黒させるのを一切気にせず両腕を片方ずつがっしり掴んだふたりは同じ方向を指さしてひとこと。 「「手ぇ洗ってこいや東海道本線」」